休日の公園で、ドライバーを持ち出してフルスイングの素振りをしている人がいたら、どう感じるでしょうか。本人は「ボールは打っていない」と思っていても、周りの人は子どもを遠ざけ、少し離れた場所から眉をひそめて見ています。法律違反かどうか以前に、「ここでそれをやるのか」という空気がそこにはあります。
ドローンにも、同じことが言えます。
許可があっても
「どこでもOK」じゃない
国家資格を取り、機体を登録し、飛行計画を通報する。これはパイロットとして当然の第一歩です。ですが、航空法が見ているのは主に「空の安全」です。その空の下には土地の持ち主や管理者がいて、そこで暮らす人がいます。
「その場所で飛ばしてよい」という許可ではありません。
素振りが禁止されていない公園でも、人の多い広場でフルスイングしてよいことにはならないのと同じです。
空の下には
必ず誰かの土地がある
民法207条は、土地の所有権が「法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と定めています。どこまでの高さが範囲かは一律に決まっていませんが、他人の土地の上空を無断で飛び、所有者に不安を与えればトラブルに発展し得ます。他人の敷地や田畑に勝手に離着陸すれば、それは立派な立ち入りです。
「上空を通過するだけ」ではなく、「その下の持ち主はどう思うか」を考える。それが土地の上を借りて飛ぶ者の基本姿勢です。
公園にも河川にも
「管理者」がいる
公園には条例があり、管理者がいます。多くの自治体の都市公園では、ドローンの飛行を禁止したり、事前の許可を求めたりしています。航空法の許可があっても、条例に基づいて飛行の中止を求められることはあり得ます。
河川敷なら河川管理者、道路なら道路管理者と警察、国有林なら森林管理署。神社仏閣や観光地にも独自のルールがあります。国の重要施設や原子力発電所、防衛関係施設などの周辺は、小型無人機等飛行禁止法で厳しく制限されています。
「誰が管理しているか」を調べ、必要なら事前に相談する。このひと手間が、ドローンが社会に受け入れられるかを左右します。
義務じゃなくても
ひと言伝えておく
道路使用許可が必要な場合や、小型無人機等飛行禁止法の対象施設の周辺で飛ばす場合(48時間前までに管轄の警察署を経由して通報)を除けば、警察へ届け出る法的義務はありません。それでも、管轄の警察署に事前にひと言伝えておくことをお勧めします。
ドローンが飛んでいれば「不審なドローンがいる」と110番通報されることは珍しくありません。警察が何も知らなければ「正体不明の不審機」として現場に向かいますが、事前に日時・場所・目的・操縦者を伝えてあれば「ああ、あの件ですね」と初動がまったく違ってきます。実際、「知らせてもらえると助かります」と歓迎されることが多いものです。当日は許可・承認書や飛行計画の通報内容をすぐ見せられるようにしておきましょう。
でも、落とし穴もあるよ
人のいない河川敷で数分飛ばすだけなのに毎回電話する、110番にかけてしまう、当日になって慌てて伝える、電話口で法律相談を延々とする。連絡は管轄署の代表番号へ、必要な場面に絞って、要点を簡潔に。
明らかに危険な飛行計画なのに、「航空法の許可があるなら、こちらは特に問題ないです」と言われて安心してしまう。警察官は航空法や機体の安全性の専門家ではありません。それは安全の保証でも、警察の許可でもありません。警察に連絡したからといって、危険は一ミリも減りません。
「警察にも連絡済みだから」は言い訳になりません。
飛ばしてよいかを決めるのは、最後まで貴方自身です。
法律に書いていないことこそ
品格が出る
騒音
プロペラ音は思う以上に響きます。早朝の住宅地、静かな集落、キャンプ場の夜。鳥や家畜、ペットが驚くことも。時間帯と場所を選ぶのは、音を出す側の責任です。
電波
2.4GHz帯は無線LANなどと共用で、混雑した場所では周囲の通信にも影響し得ます。5.7GHz帯のFPV伝送には無線従事者資格と無線局の開設が必要。技適のない送信機は電波法違反です。
覗き
カメラ付きドローンは窓の中も簡単に写します。総務省は撮影映像をネット公開する際のガイドラインで、住宅地にカメラを向けない、顔やナンバーにぼかしを入れる配慮を求めています。軽犯罪法の「のぞき見」に問われることも。
「できる」と「してよい」の
間にあるもの
ゴルフの素振りは、技術的には公園でもできます。ドローンも、性能的には住宅地の上でも飛ばせます。けれど、「できる」と「してよい」の間には、法律、地域のルール、周囲の人の気持ちという、目に見えない境界線があります。
求められているのは操縦の腕前だけではありません。その境界線を自分で見つけ、持ち主や管理者、警察に必要な一報を入れ、最後は自分の責任で判断する力です。一人の無神経なフライトが地域全体の「ドローンお断り」につながることもあれば、一人ひとりの配慮がドローンを歓迎される存在に変えることもあります。
貴方のフライトは、周りから見て
「フルスイングの素振り」になっていませんか。
離陸の前に、ほんの少しだけ、
空の下にいる人のことを思い浮かべてみてください。
- 民法207条(e-Gov法令検索)
- 内閣府 地方分権改革 提案対応資料(条例による飛行制限と航空法の関係)
- 警察庁「小型無人機等飛行禁止法関係」
- 総務省「ドローン等に用いられる無線設備について」
- 総務省「『ドローン』による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」
- 軽犯罪法 第1条23号(e-Gov法令検索)