海岸沿いで、水面ギリギリを這うようにドローンを飛ばして撮影しました。ところが、あとで映像の記録データを見ると、高度が「35m」になっています。海面スレスレなのに35m。故障でも設定ミスでもありません。この35mの正体を追っていくと、ドローンの「高度」には少なくとも3種類あり、それぞれ信頼度がまったく違うことが見えてきます。
ドローンの高度は3種類ある
- ①気圧計による「離陸点からの高さ」(相対高度)
- 離陸時の気圧を0mとして、そこからの気圧差を高さに換算したものです。送信機の画面に普段出ている高度はこれです。
- ②GPSの高さ(楕円体高)
- GPSは地球をなめらかな回転楕円体(WGS84/GRS80)に見立て、その表面からの高さを測ります。この楕円体は計算用の形で、実際の海面とは一致しません。
- ③地図の標高(海抜)
- 平均海面を陸地の下まで延ばした仮想の面「ジオイド」からの高さです。日本では東京湾の平均海面(T.P.)が基準です。
DJI機の動画に付く字幕ファイル(SRT)を開くと、rel_alt(相対高度)と abs_alt(絶対高度)という2つの高さが並んでいます。今回の35mは、このうち絶対高度、つまりGPS由来の高さです。
35mの正体は「ジオイド高」
地球の重力は場所によって少しずつ違うため、ジオイド(≒平均海面)は楕円体に対して波打っています。日本付近では、ジオイドが楕円体よりおおむね30〜40m上にあります。この差がジオイド高です。
関係式は次のとおりです。
楕円体高(GPS)= 標高(海抜)+ ジオイド高
海面スレスレなら標高はほぼ0m。すると、GPSの高さはほぼジオイド高そのものになります。
| 標高 | 約0m |
|---|---|
| + ジオイド高(大阪湾周辺) | 約37m |
| GPSが示すはずの楕円体高 | 約37m |
| ドローンが記録した値 | 35m |
差は2m程度。つまり35mは「水面からの高さ」ではなく、GPSの楕円体高がそのまま記録されていた、というのが答えです。
撮影地点のジオイド高は、国土地理院の「ジオイド高計算」で緯度経度から調べられます。APIも公開されていて、大阪湾周辺で試すと37.3〜37.5m程度の値が返ってきます。
もう一つの実例:9mずれていた写真
別の場所で、離陸点から1.7m上昇して撮った写真でも確かめてみました。
| 地面の標高(地理院データ) | 約1.1m |
|---|---|
| + 離陸点からの上昇 | 1.7m |
| ドローンの標高 | 約2.8m |
| + ジオイド高 | 約37.4m |
| GPSが本来示すはずの楕円体高 | 約40m |
| 写真に記録された絶対高度 | 30.9m |
こちらは約9mずれています。海岸の例では2mしかずれていなかったのに、なぜでしょうか。
理由は、GPSは高さ方向の誤差が大きく、単独測位では10m前後ずれることも珍しくないからです。衛星はすべて空の上側にあるため、水平方向より高さ方向のほうが精度が出にくい。これはGPSの構造的な弱点です。海岸の例がほぼ一致したのは、たまたま誤差が小さかったとも言えます。
では、気圧計の高さは正確なのか
結論から言うと、短時間・短距離の飛行なら、GPSの高さよりずっと信頼できます。地表付近では、気圧がおよそ1hPa下がるごとに約8m高くなる計算で、この差を高さに換算しています。実際の機体では、IMUやGPS、低高度では下方ビジョンセンサーとも組み合わせて高度を出しています。
ただし、次のような誤差要因があります。
- 気圧の時間変化(ドリフト) 天候で気圧はゆっくり変わります。前線通過時や長時間運用では数m単位でずれることがあります。着陸時に表示が0mに戻らないのはこれが一因です。
- 機体まわりの気流 プロペラの吹き下ろしや高速飛行時の風圧でセンサー付近の気圧が乱れ、高速前進中に高度表示が一時的に下がることがあります。
- 温度 気温や機体内部の温度変化で、換算に誤差が出ます。
- 「離陸点から」であって「真下の地面から」ではない 実務ではこれが一番の落とし穴です。斜面や崖の上から離陸して海の上に出れば、表示高度と水面からの実際の高さは簡単に数十m変わります。
実務で気をつけること
- 記録データの絶対高度は標高として使わない。DJIの写真や動画に記録される絶対高度は、ジオイド補正の有無が機種やファームウェアで異なり、GPS由来の誤差も大きめです。
- 高さを知りたいときは「相対高度+離陸点の標高」。手持ちのデータの中では、気圧計の相対高度に地理院データの離陸点標高を足すのが比較的信頼できる方法です。ただし起伏のある場所では、地表からの高さとは一致しません。
- 航空法の150mは「地表(または水面)から」。規制の基準は海抜ではありません。山間部や斜面では、画面の高度表示だけで判断せず、地形を意識する必要があります。
- 測量や3Dモデル化ではRTKかGCPを。正確な標高が必要な場合は、RTKで測位するか、標高が分かっている基準点(GCP)を地上に置く必要があります。
まとめ
- ›海面スレスレで「高度35m」の正体は、GPSの楕円体高。海面の約37m下にある楕円体から測っている
- ›GPSの高さは、単独測位だと10m前後ずれることがある
- ›気圧計の「離陸点からの高さ」は、短時間ならGPSよりずっと信頼できる
- ›ただし気圧計の高さは「離陸点基準」。起伏のある場所では地表からの高さとは別物
ドローンの記録に残る数字が「どこから測った高さなのか」を知っておくだけで、データの読み違いや飛行高度の思い込みを防げます。